織姫・彦星伝説と中国の乞巧奠には織姫が登場するので、七夕の由来として納得できるものですが、日本古来の神事である「棚機」はご存じでしたか?
「棚機」では、「棚機女(たなばたつめ)」と呼ばれるけがれを知らぬ選ばれた乙女が、川などの清らかな水辺に設(しつらえ)られた機屋(はたや)にこもって俗世から離れ、神様にお供えする着物を織りました。
そのときに使われた織り機が「棚機」で、神事の名前のもととなっています。織り上がった着物は、神様を祀る棚に供えられました。
やがてこの神事は、仏教の伝来にともなって7月15日のお盆の準備として、7月7日に行われるようになったということです。
神様は7月6日に訪れ、翌7日にお帰りになると考えられていたので、棚機女は6日の夜には織り上げた着物を棚に供えます。
そして7日の夕べに棚機女が機屋から出てきたら、秋の豊作を願い、人々のけがれをはらうために水辺で禊みそぎをしたといいます。
7日の夕べに行うので「七夕」と書き、「棚機」と同じ「たなばた」の読み方が当てられたのでしょう。「棚機」はかなり古くからある風習と考えられます。
天武天皇の命で7世紀から8世紀にかけて編纂された日本最古の歴史書である「古事記」「日本書紀」のどちらにも、棚機女を連想させる記述があるのです。
「古事記」では、アマテラスオオミカミが神聖な機屋で神に捧げる着物を女たちに織らせていると記され、
「日本書紀」では、ニニギノミコトの妃となるコノハナサクヤヒメが「機織る少女」として登場します。
これが棚機女に直接結びつくとは限りませんが、機織りの女性が特別視されていたことはうかがえます。
まさに日本の黎明期から続いていた神事なのかもしれません。
神の存在が大きかった古代の神事は、人々の切実な祈りを象徴しています。